一途な敏腕社長はピュアな彼女を逃さない

庭園には様々な飾られたオブジェが飾られていた。


「俺、何か気にさわることでも言ってしまったかな」

申し訳なさそうに頭をかく神崎さんに
誤解だというように顔を振った。

「いえ、すみません...
ただ、少し思い出してしまって...
実はあの絵は私が描いたものではないんです」


「えっ?」


「あの絵は...
私の亡くなった父が描いたものなんです。」

私は顔を上げて青く晴れた空を見つめると
父の絵を描く姿を思い浮かべた。

「父は元々画家の仕事をしていたんです。
母と出会って私が生まれたのをきっかけに
画家の仕事は諦めたんです。
絵だけで食べていけるほど
甘い世界ではないですからね。」

私は笑いながら肩をすくめると
話をつづけた。


「人とのコミュニケーションが
なかなか上手く取れない私に
父は絵を教えてくれたんです。
そのおかげでかけがえのない友達も
作ることができました。
父には感謝してもしきれないです...」


「そうだったんですか...」


神崎さんは優しい声色で相槌うつ。


「だから神崎さんがあの絵を好きだと
言ってくれてとても嬉しいです。
父も天国で喜んでいると思います。
ありがとうございます」


私はペコリと頭を下げた。


「あーでも少し悔しいです。
父を超えるにはまだまだ頑張らないと」


私がフフっと肩をすくませると、神崎さんもそれを見てフッと微笑んだ。


「でも俺も君のお父さんに感謝だな...
おかげで君との心の距離が
少しだけ縮まった気がする」


神崎さんはニッと口角を上げると
私の前に右手を差し出した。


「そろそろお腹もすいたことだし
ご飯でも食べに行こうか」


私は一瞬戸惑ったものの
神崎さんの手のひらにそっと自分の手を重ねた。

その手はとても温かくて
優しくて、父の大きな手を思い出す。




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