一途な敏腕社長はピュアな彼女を逃さない
男性はそう言ってプレハブの仮設事務所へ
入って行くと、すぐさま資料を持って出てきた。
「社長お待たせしました」
「ありがとう。少し見せてもらうよ」
「はい、どうぞゆっくり見ていってください」
そして男性は現場へと戻っていった。
「これを君にも見てほしいんだ」
そう言って資料を手渡してきた神崎さんに
少し戸惑いながらも両手で受け取る。
そして完成予定図の描かれた資料をパラパラとめくっていった。
「素敵...まるでお城みたい...」
「このホテルは美術館に併設して建てられるから目で見ても癒されるように設計を考えたんだ。」
「はい...とても素敵で
実際に泊まってみたくなります...」
「ありがとう。
それでかよこさんに相談なんだが...
君にロビーに飾る絵を描いてもらいたいんだ」
「えっ?わたしっ...?」
「あぁ、是非、かよこさんに描いてもらいたい」
神崎さんの真剣な表情に冗談ではないことが
分かり、動揺して首を横に思いきり振った。
「いえ...でも...ロビーはホテルの顔ですよ?
そこに私の絵を飾るなんて...」
そんな大それた作品を私が
描ける自信はない。
「大丈夫だよ!
君の絵はとても素敵だから
自信を持ってほしい。
急かしてしまうが
あと半年で完成させてもらいたい。
もちろん絵の報酬もきっちり支払うよ」
完成予想図を見てもとても素敵なホテルで
描いてみたいという気持ちはある。
しかし、
この素敵なホテルの雰囲気を自分の絵で
ぶち壊してしまうのではないかという
不安でなかなか首を縦に振ることはできないでいた。
「今すぐに返事はしなくていいから
1週間考えてみてくれないか?」
「でも...」
「カヨ子さん...失敗を恐れて諦めちゃだめだよ。
もしカヨ子さんが少しでも
描いてみたい気持ちがあるのなら
諦めず挑戦してほしいんだ。
考えてみてくれるかな?」
神崎さんは私の目をじっと見つめながら
ゆっくりと諭すように語りかけた。
私は思わず神崎さんの目を見つめたまま
こくんと頷いた。
「良かった。ありがとう。」
神崎さんはホッとしたように息を吐いた。
「また改めて返事を聞かせてほしい。
詳しいことはまたそのときに話すよ」
そう言って神崎さんは
私を家まで送り届けると
名残惜しそうに帰って行った。