みずたまりの歩き方
▲5手 コーラとカフェラテ
駅まで走ってきた圭吾は、大きくジャンプしてみずたまりを跳び越えた。
着地と同時に美澄に向かって手を上げる。
「古関さん!」
「あ、圭吾くん。今倶楽部の帰り?」
圭吾のニット帽についた雪を払いながら美澄は尋ねる。
冬休みに入って、圭吾は毎日あさひ将棋倶楽部に通っているらしいが、美澄はアルバイトが忙しくて通えていなかった。
年末年始は帰省する学生も多く、毎年人手不足なのだ。
「ねえねえ、久賀先生にケンカ売ったってホント?」
クリスマスプレゼントの話をするみたいに、圭吾は目を輝かせて尋ねた。
「なんで知ってるの?」
「みんな知ってるよ」
『みんな』の顔を思い浮かべ、美澄は苦笑する。
「それより、電車の時間大丈夫? またギリギリなんじゃないの?」
ブルーのダウンからデジタルの腕時計を引っ張り出して、圭吾はしっかりとうなずいた。
「もう間に合わない」
「次の電車は?」
今度はリュックのポケットからメモを取り出す。
「えーっと、四十八分あと」
一段と強くなった吹雪を見てから、美澄は圭吾に視線を戻す。
「ココア飲む?」
「コーラがいい」
「了解」