みずたまりの歩き方
「だって、日藤先生のお家に住んでるんですよね?」
「ご実家にお世話になってるけど、師匠は一緒に住んでないよ」
「でも今時『内弟子』なんて、よっぽどでないと取りませんよね」
久賀と日藤の間でどういうやり取りがあったのか、美澄はまったく聞かされていない。
ただ、自身に『よっぽど』の才能があるとは思わないので、久賀が『よっぽど』何かしてくれたのかもしれない。
「それより、これありがとう」
おもむろに話題を変えて、キャラクターのついた紙袋を梨乃に差し出した。
中身は昨夜あわてて観たDVDだ。
「あ、どうでした? ダンスすっごくないですか?」
「ああ、うん。すごかった」
「泰くんの汗で濡れた髪を払う仕草とかヤバいですよね! 髪切らないでいてくれて感謝しかないです!」
「そうだね」
「美澄さんは誰が一番よかったですか?」
「誰……あの、紫の髪の人、かな。エロくてかっこよかった」
「ハルくんか。美澄さんって、そっちのタイプなんですね」
そっちがどっちかわからないまま、美澄はとりあえず笑顔を向ける。
「ハルくんって色気があるのはもちろんですけど、小学生のときダンスの世界大会に出てるんですよ。歌もうまいしラップもできるし、低音から高音までまったく隙なし! だから美澄さんの気持ちもわかります。でも大翔くんの人の心の隙間にそっと寄り添う癒しにも気づいて欲しかったなぁ」
美澄はうなずきながら、脳内で将棋に変換していた。
小学生名人戦で優勝して、居飛車も振り飛車も指しこなすオールラウンダー。
しかも序盤から終盤までまったく隙なし!
そう考えて、初めてハルくんに心からの敬意を向ける。
「へえ~、ハルくんってすごいんだね」
ところが、変換した経歴がほぼ久賀と一致していることに気づき、そちらの方がより一層美澄に驚きを与えた。
ただし、「色気がある」は変換できないし当てはまらない。
「でもよかった! あれ観てハマらない人はいないと思ってるんです。で、次がこっち。ドームなのでとにかく派手ですごい仕掛けがいっぱいなんです! オープニングで大翔くんのお姿を拝見しただけで、四局指した疲れなんて一気に浄化されますから!」
「……ありがとう」
頭が痛いのは、きっと低気圧のせいだ。