みずたまりの歩き方
美澄がグラスを洗って水切りカゴに伏せると、馨はハットを頭に乗せる。

「じゃあ、行こうか」

「はい」

美澄は馨を小走りで追いかけて、その洗練された後ろ姿に感心した。
ゆったりしたグレーのクロップド丈パンツを、自身の脚に合う長さに折って調節している。

「師匠、今日のパンツの丈かわいいですね」

「ありがとう。うれしい」

夏の名残の陽を背景に馨は笑う。

「古関さんは今日、妖精?」

美澄が着ているカットソーは、イエローグリーンの三段フリルになっている。

「『レタス』です」

「レタスにしては黄ばんでない?」

「……変ですか?」

「俺は好きだよ。ファッションは個性だから」

ありがとうございます、と美澄はほんのり口角を上げる。
馨はうつむく美澄の後頭部を見下ろした。

「俺はね、『変』は褒め言葉だと思ってるの」

「そうでしょうか」

「大事なのは、俺がそう思ってるってことだよ。他人の評価じゃない」

美澄はさっきより明るく笑って顔を上げた。
西風が古びた夏を掃き清めるように街を吹き抜けていく。

「先生は奇妙だって思ってたみたいです」

あはは、と馨は声を立てて笑う。

「夏紀くんはねぇ。『タンクトップが高いって納得いかない。布の面積少ないのに』とか言う人だから」

「言いそうです」

久賀は今日も青か黒のシャツを着ているのだろう。
せめてTシャツの裾は出してくれているだろうか。

また吹いた西風が美澄のフリルをひらりと撫でた。

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