宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
陸の両親は、彼の仕事にも私生活にも全く関心を持たなかった。
祖父のワンマン経営に振り回され、いつも金策に追われた父は
60歳になった途端、引退してしまった。
潔く身を引いたというより、会社を陸に丸投げしたと言ってもいいだろう。
古参の役員たちの力を借りながら、陸は10年かかって今の地位を確固たるものにした。
私生活を犠牲にしたから成し遂げられたと言ってもいいくらいだ。
母の敏子は大人しい女性で、父の言う事に逆らわず波風立てずに暮らしている。
水杉家の親族にはやっかいなタイプの男が多いから、自然とそうなったのだろう。
ただ、今回の陸の縁談に対しては不愉快そうな顔をしていた。
ひとり息子が、祖父の恨みを晴らすためにロクに知らない女を妻にするのだから。
いや、その逆だ。もしかしたら結婚相手への同情だったかもしれない。
自分と同じ様に、水杉の男の我儘に振り回される運命を選んだ事への。