宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
愛が見えなくて
それは、たまたま新幹線で広島に向かっていた風間だった。
中国地方も大阪支社の管轄だから、下りの新幹線に乗っていたのだ。
陸が突然一花と離婚した事は、当時は社長秘書をしていたから知っている。
あの日、陸が怒りに任せて払いのけた書類が部屋中に舞うさまは
今でも忘れられない光景だった。
「一花さん…どうして…。」
何度かパーティーの打ち合わせで話した事もあったが、
大田原の話とは一致しない、真面目で聡明な女性だった。
水杉と大田原の家同士の思惑の為に、便宜上の妻にされたのは気の毒だと思っていた。
でも、一花は島の生活をそれなりに楽しんでいる様だったし
マイペースな暮らしぶりに安心すらしていた。
おまけに、いつ頃からか陸とも親密になったらしく
二人の間が普通の夫婦関係になればと心から願ったものだった。
だからこそ、一花から離婚を言い出した事は、風間にとっても青天の霹靂だったのだ。