宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~


「四年くらい前になりますが…水杉社長が珍しく休みを取られた頃の事なんです。」


「ああ、そうでしたね。別荘に長く滞在されたから覚えていますよ。」
「確か、別荘で一花さんと暮らしていましたね。」

「あの頃…お二人は上手くいってると思ってたんですがねえ…。」
「山形さんもそう思われますか?」

「そりゃあそうですよ。見ると聞くとは大違い!」
「は?」

「いやね、最初はどんな女が社長夫人になったのかと思って…。」

山形は風間に当時の事を思い出しながら話して聞かせた。

陸から聞いていたのは、派手で金使いの荒い令嬢だという事のみ。

ところが、島に降り立ったのはシンプルな服装の女性だった。

母屋で暮らすとばかり思っていた奥様(・・)は、狭い離れが良いと言い出した。

それも、後で考えたら自分たち夫婦の事を思いやっての事だった。

地味なジャージ姿で散歩したり杉ばあ(・・)のリヤカーを押したりする姿は、
すぐに島で噂になっていた。勿論、良い意味で。

気さくで飾らない一花を、誰も社長夫人とは思わなかった。
『水杉の親戚』と一花は自己紹介していたからだ。

『プチ・ポアン』で働きだすともっと人気が出て、店の客も増えたと聞く。


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