宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
「何か…ご用でしょうか?」
「ああ、色々とな。」
「そうですか。急いでいますので、日を改めていただけませんか?」
「いや、今日がいい。」
まるで駄々っ子のように陸は言い張っている。
「急ぐんです。」
「じゃあ、車で送るよ。」
「結構ですから。」
「息子を迎えに行くんだろう?」
一花は息を飲んだ。『知っている?』あれ程隠してきたことを『知っている?』
「さ、行こう。」
呆然としていた一花の腕を取ると、陸は病院の正面玄関前のタクシー乗り場に急いだ。
「待って!」
「生憎、俺は待つのが苦手なんだ。」
先に一花を後部座席に押し込みように乗せると、陸は運転手に告げた。
「あすなろ保育園まで。」
苦も無く、海里を預けている保育園の名を言っている。
「…誰に聞いたの?」
「弟に。君と俺の可愛い弟にね。」
「歩に会ったの?」
「いいドクターだ。しっかりしてるし話が早い。」
一花は口を閉じた。弟と陸が何を話したのか気になるが余計な事を言いたくない。
二人が黙り込んでいるうちに、保育園の門が近付いてきた。
「運転手さん、ここでとめて下さい。」
陸は運転手に暫くここで待つように頼むと、二人は車から降りて向き合った。
「ここで、待ってて。」
「…わかった。」
「余計な事は言わないで。」
「考えておく。」
陸をひと睨みすると、一花は少し歩いて園に入って行った。