宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
『待つのは辛い…。』
タクシーを降りてから、一花が子供と一緒に門を出てくるまで
ほんの何分かの事だったろうが、陸には数時間に感じられた。
歩から一花の予定を聞いて、病院まで押しかけた。
子供が通う保育園の名も聞いていたからここまで一緒について来た。
だが…。ここからどうするかは、全く白紙だった。
そもそも子供なんて、どう扱えばいいのかわからない。
電柱の陰に立っていたら、通りすがりの人からも怪訝な顔で見られてしまった。
まるで園児を狙う不審者扱いだ。
不意に、門から一花が出て来た。
側を歩いているのが…息子だ。
小さい。
それが陸が最初に思った事だった。
歩いて、喋っている。
ニコニコと笑っている様だ。
こちらに向かって歩いてくると声も聞こえてくるようになった。
「…あのね…。」
男の子のやや高い声が耳に心地よい。
「…それで?」
一花の声が、何て優しんだ。聞いた事のないような、丸い声だ。