宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
待たせていたタクシーに乗って、園からほど近い一花のマンションへ行く。
勿論、三人でだ。
タクシーに初めて乗った海里は大喜びだが、一花と陸は沈黙している。
海里一人がご機嫌で、園で覚えたのか乗り物の歌を歌っていた。
車から降りても大人二人の沈黙は続き、階段を一段上がるごとに一花の顔が強張っていく。
ゆっくり歩く大人がじれったいのか、海里は先に自分の部屋まで駆けて行った。
小さいがまだ新しいマンションの二階に一花達は暮らしていた。
大柄な陸が入ると、かなり狭く感じる部屋だ。
あまり人見知りをしない海里も、突然現れた得体の知れない男性には警戒している様だ。
ただ、『パパ』に興味はあるのだろう。一花に隠れるようにしながらも目を離さなかった。
「ママ、お腹空いたあ~。」
「あ、ゴメンね!すぐ作るからね。」
部屋まで来てしまった陸をどうするか一花が迷っていたら、海里が声を掛けた。
「パパも食べる?」
「うん?」
「晩ごはん。海里のウチでご飯食べる?」
「いいのかな?」
「いいよ。」
息子の言葉に陸は救われた気がした。このまま何も話さずに帰りたくなかったのだ。
一花は黙って、キッチンに立っていた。