宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
弟の気遣いが嬉しくもあり、煩わしくもあった。
「じゃあ、海里をお願いね。」
姉としての意地かもしれないが、弟の手前、平静を装ってしまった。
狭いマンションで出来る話しではないのはわかっている。
陸と二人、また無言で家を出た。
駅前までゆっくり歩いて、カフェに入った。
コーヒーを注文しても、まだお互いに黙ったままだ。
『何から話せば…。』
目の前にコーヒーカップが運ばれてから、漸く陸から口を開いた。
「妊娠がわかったのは…いつだったんだ?」
「だいぶ後になって…もうすぐ12月になる頃だったかな…。」
「それまでわからなかったのか?」
「いろいろ忙しかったから、ストレスで遅れてるのかなって。」
「あの夜だな…。」
陸の言葉に、思わず赤面してしまう。
一花はあの日の自分を思い出しただけで、カッと頬が熱くなってきた。
「あの日一花は…大田原に会ったのか?」
「叔父に?いいえ。」
「なら、どうして…。家を出たんだ?」
一花はコーヒーカップを持とうとした手を下ろして俯いた。
「あなたには、もっと相応しい人がいるんじゃないかと思って。」
「どういう事だ?」
覚悟を決めて、一花は真っ直ぐに陸を見た。
「あなた、私と子供を作る気は無かったでしょ?」
「それは…。」
「あなた、私とじゃあダメなんだと思ったの。後継ぎに大田原の血はいらないんでしょ?」