宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
忙しい陸の何処に、そんな時間があるんだろう。
あれから、陸は数日おきに一花と海里を尋ねてくるようになった。
面会日を決めるどころの話ではない。
時には大きなおもちゃ持参だ。
お金のかかったプレゼントに難色を示したら、今度は知育玩具を買ってきた。
『海里を手に入れる為に…。ここまでするの?』
海里も日ごとに陸に懐いた。
一度『パパ』と呼べたら、もうなし崩しに陸を受け入れている。
海里にしてみれば、時折やって来て自分と遊んでくれる優しいパパに違いない。
「ねえ、歩。陸さんとどんな話をしたの?」
一花は何度か弟に聞いてみたが、歩の答えはいつも同じだった。
「話してみたら、思ったよりいい人だったんだ。」
「いい人って?」
「姉さんと海里には、必要な人だよ。」
歩はいつの間にか、陸を認めていたらしい。
だが、一花には陸の本心が見えなかった。
いつだったか陸の母から聞いた言葉が蘇る。
『水杉の男はね、何か一つに執着すると周りが見えなくなっちゃうみたい。』
義母の言葉を信じれば、今の陸は息子に執着しているとしか思えない。