宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
何匹もの魚が泳ぐ水槽の前に、親子三人が仲良く立っている。
背の高いパパ、ほっそりとしたママ、小さい自分を左右から守るように手を繋いでいる。
『これが、海里から見た家族の姿…。』
「海里…。」
「なあに、ママ。」
「パパの事、スキ?」
「うん、だーいすき!」
その時、チャイムが鳴った。
「あ、パパかな~。」
海里が走ってカギを開けに行く。
「海里、誰か確かめてから開けないと!」
注意するより早く、海里がドアを開けてしまった。
「おや、可愛い坊ちゃんだねえ~。」
ドアの向こうには、見知らぬセールスマンが立っていた。
「お母様ですか?初めまして、学習教材を扱っております…。」
この地区の担当で、学習教材を販売しているらしくねちっこく売り込んでくる。
ベタベタ脂ぎった態度が大田原に似ている様で薄気味悪かった。
「お子さんの才能を伸ばすのは、お母様にしか出来ない事ですから!」
「うちは、結構です。お引き取り下さい。」
「お母様、お子さんの将来の為ですよ。是非、我社の…。」
「必要ないので…。」
押し問答をしていたら、セールスマンの後ろから声がかかった。
「我が家に何の御用ですか?」
陸が立っていた。その迫力に、セールスマンは怯んだ。
「おや、お父様のご帰宅ですか?失礼いたしました~。」
陸の迫力に、セールスマンはすぐさま踵を返して去って行った。