宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
一花が今、叔父の大田原勝男に連れられて向かっているのは、
この町に古くからある有名な料理旅館の別館だ。
小径の向こうに、山の中腹に建てられている趣味の良い数寄屋造りの建物が見える。
小高い山だから、当然道はとても狭い。
特に駐車場で車を降りてからは石畳が組まれて別館まで続いている。
結構山の斜面は角度があるから、ハイヒールでは歩きにくいのだ。
以前バレエを習っていて体幹を鍛えている一花でも、バランスを取るのに苦労していた。
膝の古傷に影響が出なければいいのだが…。
おまけに叔父の趣味か、叔母の好みかわからないが
無理やり着せられたピンクの花柄のワンピースもいただけない。
上半身は身体に張り付くようなデザインで、一花が着ると胸が余り豊かでは無いのが強調されていた。
何しろ、今日は一花の見合いなのだ。
見合いに着せるには、あまりにも不向きではと思ってしまう。
ただヒラヒラしたスカートだけは、並みの日本人なら膝下丈で野暮ったくなりそうだが
足の長い一花が着ると膝上で揺れて美しく広がっている。
一花のスラリとした脚線美には、ハイヒールと共に良く似合っていた。
全く気分は盛り上がらないが、一花はもう決めている。
叔父の言う通りに、今日が初対面の相手と結婚することを。