宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
陸がいきなり島を訪れたのには理由があった。
『いつまで、奥様を放っておかれるおつもりですか?』
瀬戸内にある別荘の管理を任せている山形から、この数ヶ月、何度も連絡があった。
書類上の妻となった『一花』を、陸は昔から水杉家に仕える山形夫妻に任せたのだ。
時折り電話で近況報告を聞くと、あのオンナは別荘の離れで独りのんびり暮らしているらしい。
殆ど島から出ることなく、買い物をするでもなく過ごしているとの報告だ。
おかしい…。あの金をいつ使っているんだ…?
もしかして、あの叔父の様に株でもちょこちょこ初めたのか?
気にはなったが忙しい。結局、島を訪れたのは梅雨が明けてからだった。
一花が一人暮らしをしているコテージには鍵がかかっていなかった。不用心なヤツだ。
中に入るとバスルームから楽しそうな鼻歌が聞こえる。何のメロディーだろう。懐かしい…。
一花がシャワー中かと思っていたら、洗面所から出てきたのは見覚えのない顔のオンナだった。
「誰だ?」
思わず口にすると、そのオンナはくすりと笑った様に見えた。
「お久しぶりです。妻の顔も忘れちゃった?」
一花だと、そのオンナは言った。