宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
また、目の前のオンナは鼻歌を歌い出した。
懐かしいメロディー…。ああ、何とかというアニメーションで流れた曲だ。
子供の頃、友達と見た記憶があった。空に浮かぶ島の話だったか…。
冷蔵庫を開けたり閉めたり…。
鍋に湯を沸かしたり、卵を溶いたり…。
何が出てくるのかと側で見ていたら、「邪魔」と言われた。
この俺をリビングのソファーに追いやるとは、いい度胸のオンナだ。
ふんわりといい匂いがする。ああ…久しぶりに『空腹』を感じている自分に驚いた。
家で食事をするなんて、どれくらいぶりだろう。
ダイニングテーブルにカトラリーが並べられたと思ったら、
「出来ましたよ。」
と、一花の声がした。彼女はこんな声だったか?
思い出した。あの日は彼女とは挨拶以外、言葉を交わしていなかったんだ。