宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
「何言ってるの。そもそも、私のせいなんだから…。」
少し悲し気に微笑む一花の隣りで、歩は足を止めた。
「違うよ、姉さんのせいなんかじゃない。」
「歩…。」
「姉さんがケガしたのも、父さんが事故に合ったのも…避けられない事だったんだ。」
「でもね、あの頃…私が無理さえしなければ…。」
「姉さんだって、バレエ団に入りたくて頑張ってたんじゃないか。」
人より高く、誰よりも美しく飛ぶことが目標だった…。
「自分を責めないで。姉さんの自己犠牲のお陰で母さんも僕も楽させてもらってる。」
「そんなこと…。」
「それを言うなら俺だって、父さんの残してくれたお金を当てにして
私立の医大に進学してしまったから…。」
「もう、やめようよ。歩…。」
「それに、うちにお金が無くなったのは叔父さんのせいだし!」
「歩、その話はやめよう。お母さんを責めたくない。」
「そうだったね。言わない約束だったのに、ゴメン。」
「お母さん、もう何も覚えていないから私達も忘れよう。」
二人はそこで過去の話はお終いにした。
それからはお互いの近況報告をしながら歩のアパートまで帰ってきた。
学生向けの二階建ての小さなアパートだ。
「ここだよ。」
小さい部屋だが、小ざっぱりと片付いている。医学書だらけの部屋だった。