宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
「じゃあ、シャワー借りるね。」
「ゆっくり疲れを取って。これからが大変なんだろ。」
「う~ん。そうだけど…もう何も考えない事にしたの。」
一花はシャワーを借りてから少し綺麗な服に着替えた。
念のため、軽く化粧もしておく。東京に着いた時とは別人のようだ。
「大変だね。水杉さんの奥さんの役。」
「うん、まだ陸さんとは何回かしか会ってないんだけどね。」
「ええっ。それで今日は大丈夫なの?」
「結婚はしたけど形だけだし…いつもは気ままにさせてもらってる。
今回、初めて妻のお仕事みたいなの。東京でのパーティーへ出ろって。」
「信じられない関係だなあ。」
「見た目だけでも夫婦らしかったらいいんだけど…。」
「まあ、頑張って!」
わざと明るくポンポンと姉の肩を叩く歩にも、形だけの意味はわかった。
姉の犠牲の上に勉強させてもらっている以上、口出しは出来ないが、
夫となった人と何も無いのが良い事なのか悪い事なのか、歩には判断できない。
「励ましてくれて、ありがと。」
「あ、あと、これ…。」
歩が小さい紙を出してきた。
「なあに?」
「明日、帰りは新幹線にしなよ。自由席のチケット。」
「歩・・」
「今はこれくらいしか出来ないけど、いつかは…恩返しするよ。」
「ありがと、何より嬉しいよ。」
一花はそれ以上、言葉にならなかった。