宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
一花を迎えに来た陸は、ホテルの部屋のチャイムを鳴らした。
どうせまた、クリクリの頭に趣味の悪いドレスだろうと思っていたが、
ドアを開けてくれた彼女を見て、息を飲んだ。
『こんな美人だったか?』
あの婚姻届けを書いた日は厚化粧のケバケバしいオンナ。
島の別荘を訪ねた日は、スッピンの清潔なシャンプーの香りのするオンナ。
しかも、料理が出来た。
今また違う一花を見て、陸はどう考えていいか戸惑っていた。
『金目当ての浅ましいオンナ』には、どう考えても当てはまらない。
「馬子にも衣裳だな。」
「そう?」
「いくぞ。」
「はい。」
二人は並んで歩いた。
客観的に見れば、中々釣り合っていて似合いの夫婦のようだ。
だが、肝心の二人はお互いを穿った見方でしか知らない。
『冷酷で威圧的な仕事人間』
『派手で遊び好きなオンナ』
すれ違ったままなのは『夫婦』というより、未だに『他人』だからかもしれない。