宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~


一花を迎えに来た陸は、ホテルの部屋のチャイムを鳴らした。

どうせまた、クリクリの頭に趣味の悪いドレスだろうと思っていたが、
ドアを開けてくれた彼女を見て、息を飲んだ。


『こんな美人だったか?』


あの婚姻届けを書いた日は厚化粧のケバケバしいオンナ。

島の別荘を訪ねた日は、スッピンの清潔なシャンプーの香りのするオンナ。
しかも、料理が出来た。


今また違う一花を見て、陸はどう考えていいか戸惑っていた。

『金目当ての浅ましいオンナ』には、どう考えても当てはまらない。




「馬子にも衣裳だな。」

「そう?」

「いくぞ。」
「はい。」




二人は並んで歩いた。

客観的に見れば、中々釣り合っていて似合いの夫婦のようだ。


だが、肝心の二人はお互いを穿った見方でしか知らない。

『冷酷で威圧的な仕事人間』

『派手で遊び好きなオンナ』

すれ違ったままなのは『夫婦』というより、未だに『他人』だからかもしれない。





< 44 / 148 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop