宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
パーティー会場はかなりの人で賑わっていた。納涼を兼ねた財界の集まりだそうだが
ここまで混みあうと納涼どころかクーラーが利いていても汗をかきそうだ。
それを見越してか、豪華な広間には涼しさを演出する氷の彫刻が幾つも置かれていた。
出席者の年齢は比較的高そうで、ここでは陸も挨拶に回る立場の様だ。
会場までは一花をエスコートしてくれたが、直ぐに用事があるからと何処かへ行ってしまった。
一花はポツンと残されて困ってしまう。
『どうしよう。ここでの正解は…黙って食べてる事かな?』
テーブルに並ぶお料理やお酒で時間を潰そうとした時、いきなり声を掛けられた。
「イチカ!」
振り向くと、ショートカットのスレンダーな美女がこちらへ走って来ている。
「シリラット!」
ロンドン時代のバレエ仲間で、アジアのどこかの国の外交官の娘だ。
一花とは境遇が似ていたから、バレエ学校でもとても仲が良かった。
「何年振りかしら!こんな所で会えるなんて…。嬉しいよイチカ!」