宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
サーマート氏は一花にも丁寧な物腰で、『娘をよろしく』と言うと奥へと歩いて行った。
彼は挨拶を受ける立場らしい。
「ねえイチカ、このパーティー退屈でしょ。外に出かけない?」
「外へ?ホテルから出るの?」
「この前、この近くに踊れる所を見つけたの。」
「踊るって、バレエを?」
「まさか、クラブよ。」
「行った事無いわ。クラブなんて…。シリと違って私、田舎者なのよ。」
「だったら是非、行きましょ。」
「でも、連れに言わなくちゃ…。」
「何処にいるの?パパかボーイに伝言頼むから。」
「途中で抜けてもいいのかなあ…。」
勝手にホテルを抜け出したら、陸は怒るだろうか?
でもパーティーがあるから東京に来いって言ってたけど、結局いつも通り。
私は放置されてるだけだし…。
「…行ってみようかな。」
「そう来なくちゃ!」
シリは、父親にメッセージを送ろうとスマホを取り出した。
「イチカの連れの名前をここに入力して。」
「英語の方がいいのかな?」
「パーパは日本語もオーケーよ。」
一花は漢字表記で入力した。念のために彼の肩書付きで。
『○○○○社長の水杉陸氏に伝えて。一花とシリラットはクラブ○○○に行ってるって。』
シリは伝言内容と店の名前を父親のスマホに送った。
「こんな用事をサーマート大使に頼んでいいのかしら…」
「ダイジョウブ、気にしないで!さあイチカ、踊りに行こう!」