宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
『妻』に熱い視線を送る男達。
それを知ってか知らずか、一花は大胆に踊り続ける。
長い髪はターンすると綺麗に顔に添って円を描き、静止すると肩から胸まで落ちてくる。
セクシーだった。
陸でさえ見とれる程に、一花は華麗に見えた。
何だか面白くない。島にいる時、自分の前では素朴なオンナなのに…。
これが一花の本性なのか?
思わずセンターに歩み寄り、一花の腕を掴んで引き寄せた。
「帰るぞ!」
一花の腕を力任せに掴むと、彼女を引っ張るようにして陸はどんどん歩いた。
「あ、あの…。」
一花は面食らったが、あっけにとられているシリラットに手を振って別れを告げた。
口だけ動かしてゴ・メ・ンと告げる。
タクシーに乗ってから陸が行き先を告げると、近すぎたのか、運転手は不機嫌だ。
だが、彼が機嫌の悪さを隠しもせずにひと睨みすると車はすぐに発車した。
陸は一花の腕をエスコートというより、掴んだままだ。
フロントでルームキーを受け取ると、真っ直ぐ部屋へ向かう。
エレベーターに乗り込んでから、恐る恐る一花が陸に声を掛けた。
「ねえ、何で怒ってるの?」
改めて問われても、彼にも良くわからない。
俺は、怒っているのか?
癪に障ったので、答える気にはならなかった。憮然と黙り込む。
一花の部屋につくと陸はカギを開け、一花を放り込むように部屋へ入れた。