宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
「何よ…。」
口紅はよれて、唇は腫れて、一花は酷い有様だ。
こんなキスがあるなんて、知らなかった。
ロンドン時代、ボーイフレンドと交わしたキスは何だったのか…。
キスの余韻より、そもそも何故、陸が一花にキスをしたのかが謎だった。
「あの人の考える事なんて、全然わからないわ…。」
こんな時はシャワーを浴びてさっぱりしよう。
それから何も考えずに眠るのが一番だ。
そう思ってはいたが、キスの余韻は一花から消え去ってくれなかった。
『身体が火照る…。』
キスだけであんなに凄かったんだ。もし、それ以上をされてたら…。
一花はベッドの中で身を捩った。
婚姻届けにサインをする時に手が震えたのは、
この人と夫婦生活をしなくてはならないのかと焦ったからでもある。
覚悟はしていたが、いざ目の前に陸が現れたら怖気づいたのだ。
この人と…。
もしも、あのキス以上を知ってしまったら自分はどうなっていただろう。
それだけで身も心も熱くなる。
ダメだ…。ありもしない事を思い描くのはやめよう…。
翌日は睡眠不足のまま、一花は朝早くホテルを出た。
新幹線に乗って、母の施設に寄ってから島に帰る予定を立てていたのだ。
「歩のお陰で、チョッと楽だし…。」
そうとは知らず、陸は一花とブランチでもとホテルにやって来た。
キスの余韻に眠れなかったのは、彼も同じだ。
もやもやとした気持ちの正体を確かめたかったのだが、その時すでに一花は新幹線の中だった。