宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
その娘、竹中沙良とは面識があった。
「お久しぶり、陸さん。」
「どうも…竹中さん。お久しぶりです。」
確か数年前に縁談を持ち掛けられた記憶がある。
断った筈だが…。何故、わざわざ俺を名前で呼ぶんだ?
「両親の旅行に、ついて行くことにしましたの。」
綺麗にメイクして若く見せているが、自分とそう変わらない年の筈だ。
いったいこの親子は何を考えているんだろう。
「…そうですか。」
「今日のお昼、是非ご一緒させて下さいね。」
竹中社長夫妻はニコニコと娘の我儘を聞いている。
一応、取引先だ。親娘にどんな思惑があるか知らないが、礼を欠くわけにはいかない。
一花に会う時間が削られていくのが腹立たしかった。
空港からハイヤーで古窯のある町の近くに着いた後、
社長夫妻は窯へ見学に行き、陸は沙良の勧めるレストランへ行く事になった。
不承不承、その店の場所を聞いたら水杉の別荘の近くらしい。
陸は思いがけず沙良と島に渡り、『プチ・ポアン』へ行く事になってしまった。