宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
ハイヤーでそのままフェリーに乗り、島へ渡る。
陸と沙良が『プチ・ポアン』の前で車から降りると、オーナー夫妻が出迎えた。
「いらっしゃいませ。」
「お久しぶり、秋山さん。」
「紗良さん。ようこそ!ご予約ありがとうございます。」
沙良は店に予約まで入れていた。どれだけ準備周到だったんだと陸の機嫌は悪くなる。
「神戸のシェフの息子さんのお店でお噂を聞いて、一度来てみたいと思っていたの。」
「嬉しいですわ、ここまで足を運んで下さって。」
オーナーとマダムは嬉しそうだ。竹中家は古くからの贔屓客なのだろう。
沙良は、わざわざ陸の腕を取ってオーナー夫妻に紹介した。
「今日はご紹介したい方と一緒なの。」
一瞬、沙良の腕を振り払いそうになったが、陸は耐えた。
「水杉陸です。」
「まあ、お似合いです事。」
益々、陸は不機嫌になった。いい迷惑だ。
どういう触れ込みで俺をここに連れて来たんだろう…。
「さ、中へどうぞ。海が良く見えるお席をご用意していますよ。」
「まあ、嬉しい。」
沙良がはしゃぐ声も、陸には白々しく聞こえる。
「いらっしゃいませ。」
店の奥から、白いシャツに黒のパンツ、黒いカフェエプロン姿の一花が現れた。
『一花…。』