宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
見晴らしのいい席に案内されてからも、陸は憮然としたままだ。
陸がここを訪れたのは初めてだったが、評判は聞いていた。
『プチ・ポアン』の店内は洗練されていて、まるでヨーロッパの避暑地のレストランと錯覚するくらいだ。
この日も休日とあって店は賑わっていた。
スタイルの良い一花が接客しているだけで、店内は華やいで見えた。
程よい笑顔で、次々に一花はテーブルごとに料理を運び説明している。
「本日のオードブルでございます。」
「まあ、キレイ!」
「地元産の野菜を使っております。」
そんな会話が聞こえてくるが、陸は気もそぞろだ。
『何で彼女がここにいる?』
どうしてこんなに店に溶け込んでいるんだ…。
陸は聞きたいのに話しかけられない自分に苛立っていた。
今、沙良の前で一花に話しかける訳にはいかない。
自分が結婚した事は公にしていないのだから…。
またレストランの入り口が開いた。新しい客が入ってきたらしい。
「佐久間さん、いらっしゃいませ。」
「一花ちゃん、いつものランチお願い。」
「いつもご贔屓いただいてありがとうございます。」
「秋のメニューを聞いて食べたくなっちゃたんだ。」