宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
接客している一花の声が聞こえるたびに。陸は味がわからないくらい緊張した。
よりによって、嫌々紗良の相手をしている時に一花に会うなんて…
『何で、ここにいるんだ…。』
陸は、もう何度目かわからないセリフを胸の中で呟いた。
夏に会った時は、何も言っていなかったし、東京に呼んだ時も…。
ああ、キスはしたが、話は殆どしていなかったか。
一花は陸と初対面の様に振舞っているのが助かっている筈なのに、逆に腹立たしくもある。
料理を食べながら、陸は一花を目で追っていた
沙良が色々話しかけてくるのを適当に聞き流していると、また一組の来客があった。
「杉ばあ、いらっしゃいませ!」
「一花ちゃん、約束通り来ましたよ。」
「ありがとうございます。まあ、ご友人と一緒?」
「そうだよ。町内のお友達と末の息子も連れて来た。」
『前に一花が言ってた、この人が杉ばあか…』
日に焼けた小柄な老婦人だ。
シャキッと和服を着こなしている。
「別人みたい、杉ばあ。似合ってる。」
「だろ、捨てたもんじゃあないさ。」
楽しそうに会話が弾んでいる。
こんな顔も出来るんだと、改めて陸は一花をしげしげと見つめてしまった。