宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
夢見たものは
常連客とのミニコンサートが終わって、一花が別荘の離れに帰ってきたのは午後4時前だった。
庭に佇んでいた陸の姿を見つけて、一花は驚いた。
「どうしたの?」
「君を待ってたんだ。」
「私を?」
慌てて離れのカギを開けて、陸にも入るよう促した。
相変わらず憮然とした表情のまま、陸はリビングに入るなり一花に向かって言った。
「何故黙っていた?」
「何の事?」
洗面所で手を洗いながら、一花は不思議そうに返事をしている。
本当に、何の事かわかっていない様だ。
さっきまでの和らいだ気分が一気に弾け、陸は怒鳴り返していた。
「店で働いていた事だ!」
「だって、島では好きに暮らしていいって…あなたが言ったんじゃないですか。」
「それは…。」
確かに弁護士に言わせた記憶がある。だが、面と向かって一花から反論されたくなかった。
「お前、杉ばあの息子と付き合ってるのか?」