宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
「え?どういう意味?」
「あの息子と付き合ってるのかって聞いてるんだ!」
「あなたこそ、恋人とデートしてたじゃない。」
「あれは、そんなもんじゃない!」
二人の会話がヒートアップしたその時、一花の携帯が鳴った。
「もしもし…。」
一花はキッチンの方へ移動しながら電話に出た。
母がお世話になっている施設からの電話だったのだ。
『島谷映子さんの娘さんの携帯でしょうか?』
「はい…えっ?…お母さんが?」
「はい…はい…わかりました…。」
陸は急に一花が心配になってきた。
さっきまで言い合っていたが、電話に出た彼女の表情がみるみる陰っていくのだ。
「チョッと、出てきます。」
電話を切って直ぐ、携帯を持ったままバッグを掴むと一花はコテージを走り出た。
「あ、おいっ!」
一花は身のこなしは軽いし、足も速そうだ。
陸も知らない小径を抜けたのだろう。あっという間に姿が見えなくなった。
「チョッとって…どのくらいだ?」
それから小一時間経っても、一花は帰って来なかった。