宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
『プチ・ポアン』から裏道を抜けて別荘の庭まで帰ってきたら離れから男性の話し声が聞こえた。
陸がいつもリビングの窓を開け放しているから、話が筒抜けだ。
秘書の風間の声かと思ったが、良く聞いてみると叔父の大田原勝男の声だ。
ゾクッとした嫌な感じが一花の心を掠めた。
結婚して半年、何も言ってこなかった叔父が何故この島にいるのだろう。
一花は離れに近い植え込みに隠れると、二人の話を聞く事にした。
「聞きましたよ、水杉社長。一花にだいぶご執心のようですな。」
叔父の下卑た笑い声が聞こえる。
「スパイでも雇っておられるんですか?」
「まさか、この狭い島だ。その噂は島民の全部が知ってますよ。」
「噂?」
「水杉と大田原がやっと縁組出来たってね。ご先祖様からの悲願ですから。」
「くだらない。」
「ですが、契約の条項はお忘れじゃあないですよね。」
…条項?
結婚の条件の事だろうか…。一花は契約書の中身を良く知らない。