宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~


 ほんの一時間ほど前。水杉陸は、約束の時間より少し早く料理旅館の別邸へ着いていた。


後から来る大田原の連中をじっくりと見てやろうと思っていたのだ。

陸は幼い頃から、祖父の愚痴を聞かされて育った。

『大田原に騙された。』

『あの島は、わしの物だ。』

その言葉に固執する祖父を醜いと思ったが、祖父の愚痴は呪文のように胸の奥に残っていた。

『いつか、買い戻してやろう。』と思う程に。



陸も成長してからは、祖父にも悪い所があったのだと理解できた。
そもそも事業を焦げ付かせ、資金繰りに困るところまで堕ちた祖父も悪かった。

資金調達の為に大田原家に泣きついた祖父は、担保に自社株を渡す事に躊躇して
島を差し出したのだ。自業自得ではないか。

だが陸にとってラッキーだったのは、彼が水杉商事を継いで間もなく、
大田原勝男が祖父と同じ状況に陥った事だ。

造船会社の経営はともかく、個人資産を投資につぎ込んで失敗したらしい。

おまけに彼は、その損失を取り戻そうとして
関西の厄介な企業から持ち掛けられた産業廃棄物の処理に手を出そうとしていたのだ。

陸は、船で産廃を運び島に投棄すると言う計画を知って驚いた。

あの美しい島を汚す訳にいかない。

彼はすぐさま行動に移した。


< 8 / 148 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop