宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
「社長、弁護士の田沼様がお見えになりました。」
一花との約束通り、2週間後にアポイントを取ってから田沼は陸の会社にやって来た。
「ご無沙汰しております。」
「お珍しいですね。田沼さんが東京にいらっしゃるなんて。」
「お忙しい所、申し訳ありません。今日は…こちらをお持ちしました。」
それは、一花の部分は描き込んで捺印してある『離婚届け』だった。
『何だ、これは?』
休暇の最後の夜、あんなに情熱的だった一花が離婚を突き付けてくるなんて…。
用紙を呆然と見ている陸に、田沼は淡々と告げた。
「まさか…。」
「先日、一花さんが事務所に…。」
陸には、もう弁護士の声は聞こえなかった。
元々、女性不信が強かった陸は怒りなのか喪失感なのかわからない感情に支配された。
『信じられない…。』
一花を理解しよう、正式に妻にしようと考え始めたところだったから余計に腹立たしかった。
かつて味わった事のある、あの気持ちだ。
愛していると信じていたオンナが、実は金目当てだった。
そのオンナに翻弄されて、自分を見失った苦い経験が蘇る。