宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
田沼弁護士が去った後、陸はデスクに座ったまま身動き一つしなかった。
ただ、肘をついて組み合わせた手に額を乗せ、項垂れていた。
「社長…。」
「風間か…。」
「…何か私に出来る事はございませんか?」
「自分から男を作って出て行ったんだ。何もする必要は無い。
渡すものも無い。そういう条件だった筈だ。」
「ですが、最近の社長を拝見しておりますと…一花さんの不倫行為など信じられないのですが。」
「そうだな、俺も信じられないよ。」
突然、陸は机の上の書類に八つ当たりして、すべて払いのけた。
バサバサと音をたてて、白いペーパーが社長室に舞う。
「また、やってしまったのさ。俺にはオンナを見る目がなさそうだ。」
「そんなことは…。」
「無いと言えるか?現に、一花は出て行った!」
風間は黙り込んだ。
何度か話した事のある一花が、男を作って島を出るなんて信じられないのだ。
「この話は終わりだ。二度と、一花の話はするな。」
「…わかりました。」