宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
見失う物、手に入れる物
そして、四年近い歳月が流れた。
水杉商事は安泰で、陸は相変わらず忙しい日々を過ごしていた。
今や国内だけでなく、アジア各国へも進出しようとしているのだ。
陸の秘書は風間から、若い田野上に変わっている。
風間には去年から大阪支社を任せていた。
水杉とは逆に、大田原は折からの造船不況で苦しい経営に陥っていた。
瀬戸内のドッグも閉鎖され、海外の資本に吸収されるのも近いのではと噂されていた。
大田原からは、何度か会って欲しいと会社に連絡があったが、陸は拒否していた。
もう二度と、あの脂ぎった顔を見たくもなかったのだ。
「失礼します。」
軽いノックの音が聞こえて、童顔の田野上が入ってきた。
「社長、山形様がお着きになりました。」
「通してくれ。」
島の別荘の管理を任せていた山形夫妻が、孫の結婚式の為に上京してくる日だ。
前もって夫妻から、陸に話があるからと面会の申し入れがあったのだ。
社長室に入って来た二人が四年の間にすっかり年を取った様子を見て、陸は驚いだ。
「お久しぶりでございます。」
「良く来てくれましたね。どうぞお掛け下さい。」
「失礼いたします。」