宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
「一花ちゃんがいつ帰って来ても良いように、掃除はしているんですが…。」
「アンタっ!」
夫の失言に、山形の妻は慌てて腕を叩いて一花の話を止めようとした。
「いや、構わない。」
山形は一花がお気に入りだったなと、改めて陸は思い出していた。
島に来い、一花に会えと言って煩かったのも山形だった。
そのおかげで一花の手料理を食べられたし、東京に呼ぶきっかけにもなった…。
ほんの一瞬、『一花』という名前を聞いただけで彼女との思い出が溢れ出てくる。
社長としての顔を何とか保ちながら、鷹揚に陸は山形夫妻を労わった。
「別荘の事は、考えておくよ。長い事世話になったね。ありがとう。」
「とんでもない。来年三月までは、キチンと勤めさせていただきます。」
何度も頭を下げながら、山形夫妻は帰って行った。