宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
もし、一花の弟が今でも東京にいるなら会って話が聞きたかった。
糸島商店の息子と結婚したいから離婚届けを弁護士に持たせたのではなかったのか?
陸は、一花が別の男と結婚したいんだと思い込んでいた。
実際、田沼弁護士もそのように説明していた筈だ。
『まだ若い一花さんには違う人生がありますから』
あの言葉は、彼女には好きな男がいるという意味ではなかったのか?
あの時にうやむやにしてしまった事を、陸は後悔していた。
『一花…。』
今でも忘れていない。
あの目で見つめられたら、どんなに嬉しかったか。
彼女が機嫌よく笑っている時、自分がどれ程幸せだったか。
素直な性格も、優しい気配りも…。
そして、身体を合わせると別人の様に情熱的だったことも。
ほんの一週間だけ『妻』として愛を交わした時の、
自分の身体と溶け合うようなあの心地よさ…今でも身体が熱くなる。
一花が今、どうしているのか知りたい…。
陸の心にはまだ彼女が住み続けていたのだ。
ずっと閉じていた、心の奥に。