宿敵御曹司の偽り妻になりました~仮面夫婦の初夜事情~
「大阪か…。近くて遠いな…。」
陸がポツリと呟いた。その表情は硬い。
忙しい社長職では、軽々しく動けない。
行きたいからと言って、直ぐに新幹線に飛び乗る事は出来ない。
山形夫妻が帰ってから、社長の様子がおかしいと田野上は感じていた。
まだ社長の側に仕えて日は浅いが、彼なりに毎日その様子を見ているのだ。
何かに囚われて、かなり悩んでいる気がした。
さっきチラリと聞こえた『一花』という名前。社長の別れた奥さんの名か?
「社長、何か…あったんですか?」
「うん…。まあな。」
「あ、すみません。プライベートな事なのに。」
「いや、いいんだ。」
「自分から見たら、社長は全て完璧に見えますが…何か心配な事でも?」
「ハハッ。完璧か…。とんでもない誤解だよ。俺は恋愛にはポンコツなんだ。」
田野上は不思議そうな顔をした。
地位も名誉も、見た目だって上等な部類の水杉陸がポンコツだなんて…。
とにかく、社長をこんなに悩ませるなんて。いったいどんな女性なんだろう。
『一花』という人は。