キス魔な御曹司は親友の妹が欲しくて必死です
***

「お待たせして申し訳ありません」
早めに出てきてよかった、約束の時間までまだ余裕がある。
急いで乗り込むと車はスムーズに発進、わが社の社長、白石健一氏が渡していた資料を見ながら訊いてきた。
「誰だい? あの子は」
「友人の妹です」
「友人?」
資料に落としていた視線がちらりとこちらを向く。
「……海外事業部の八坂陸翔です」
「ああ、八坂くんね。彼の活躍は私も聞いてるよ。で、妹とも仲がいいのか?」
「ええ」
「ふむ、この間の見合いの話を蹴ったのはあの子がいるからか?」
「いえ、彼女は関係ありません」
社長はしっかりとこちらを向き俺の顔色を窺うように見つめられて居心地が悪い。
今は仕事を優先したいから結婚なんてまだ考えられない。
しかし二十八歳ともなるといい歳だからだろうか、最近ことある毎に見合いを勧められほとほと困っていた。
決して、茉緒が原因で断っているわけではない。
「……そうか、大事な身なのだから、付き合う相手は選べよ」
「……はい」
なにか言葉を飲み込んだ社長はそれだけ言うとまた資料に目を落とした。
付き合う相手を選べ、か。
いろんな人間が群がってくる立場なためか、幼いころから言われた言葉だ。
それなりに経験を積んで人を見る目はある方だと自負している。
その中でも俺にとって陸翔は利害関係なんて関係ない唯一気の許せる相手。
大学からの同期で俺の素性を知っても態度が変わることなく付き合えた気の置けない友人だったが、奴が火事に遭って俺の家に転がり込んできた頃から言いたいことも隠すことなく言い合うようになり信頼感は増した気がする。
妹である茉緒は陸翔と同じように裏表のない人柄で好感が持てるし、家事が得意なようで料理が上手い。
意外と三人暮らしは快適で茉緒のおかげでまともな食生活にもあり付ける。
この兄妹いつ出てってくれるのだろう? と思いつつ、まあこのままでもいっか、と一向にマンション探しをしない陸翔の思惑にまんまと嵌っている気がしないでもない。
でも、出ていかれると茉緒の手料理が食べられないのはちょっと、いや、かなり残念な気はする。
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