キス魔な御曹司は親友の妹が欲しくて必死です
「う、気持ち悪い……」
緊張とストレスと早歩きだったとはいえいきなり運動したからか、鳴りをひそめていたつわりがぶり返した。
そう、ここのところ体調が悪かったのは決して病気とかではなく、つわりのためだった。
「え、茉緒?」
慌てて私を見た智成も私のカバンに目が行きそれを手に取る。
「まさか……」
見開いた目は困惑している。
まさか智成も浩紀の子だと勘違いしてるわけじゃないよね!?
「ちっ、違うよ! この子はっ……」
言い募ろうとしたらまた口を塞がれた。もちろん唇で。
唇を離すと智成はゆっくりと浩紀の方を向き目を細める。
「お前の子なわけないだろ、正真正銘俺の子だ。お前、浩紀だな? 茉緒を裏切り捨てた男が今更なんの用だ」
やけに落ち着いた、地の底から湧いたような声にゾゾゾッと悪寒が走った。
浩紀も同じなのか青い顔をして硬直した。
「お、俺は茉緒とやり直そうと……今度こそ茉緒を幸せにすると決めたんだ」
「勝手なことを言うな、やり直せるわけないだろう。どこまで茉緒を侮辱すれば気が済むんだ。お前がいくら言い訳したって傷ついた茉緒の心は抉られるばかりだとなぜ気づかない? お前の存在自体が茉緒を苦しめてるんだ、お前が茉緒を幸せになんて絶対にできない」
ぐっと言葉に詰まった浩紀が苦虫を噛み潰したような顔をして俯いた。
智成に抱き締められたままその姿を見ていた私は辛かった日々と、そしてなぜだか楽しかった日々も走馬灯のように思い出して涙が滲んだ。

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