キス魔な御曹司は親友の妹が欲しくて必死です

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夕飯の後、風呂に入ってもまだ九時過ぎ。
ソファーに座って何気なしにテレビを見てると茉緒も風呂上がりのパジャマ姿で戻ってきた。今日は珍しくカーディガンを羽織り目のやり場に困らなくて済んだ。
キッチンに行きミネラルウォーターを手にした茉緒と目が合う。
「映画でも、見るか?」
「ん、うん」
さっき俺が勝手に不機嫌になったからか、やり取りがちょっとぎこちない。
茉緒はひとり分間を開け俺の隣に座ると、なにを見ようかと動画配信サービスのリモコンを操作する。
その横顔を何気なしに見ていた。
昨日の誤解はさり気なく話題に出して女と逢ってはいないと匂わせたのが成功したようで茉緒の朝の不機嫌さはなくなっていた。
なのに今度は俺が不機嫌になって気まずい雰囲気にしてどうする。
俺の父は大企業Kグループのトップ。
俺は生まれたときから後継ぎとして英才教育を受けてきた。
だが、茉緒はすごいすごいと持ち上げてくれるが、俺の努力など認めてくれる人間なんて周りにいなかった。
それが当然、出来て当たり前。能力以上に期待を持たれ、少しでも出来ないと失望される。
そういう世界で生きてきた。
恵まれた環境を悲観したことはなかったが、親のいいなりで、そして俺は甘んじてそれを受け止め親の作ったレールの上を走ってるだけ。
自分の力だけで今の地位を射止め努力を怠らない陸翔の方がよっぽど優秀で尊敬に値する。
茉緒の兄貴はすごいやつなんだ。俺は到底足元にも及ばない。
自分が卑屈になっていることはわかっているが、茉緒に褒められるとそんなんじゃないんだと否定したくなる。
まるで自分が嘘ばかりで固められた人間で堂々と茉緒の前にいられない気がした。
茉緒にだけは失望されたくないと思っている自分がいる。
「ね、これ見たい。いい?」
見たい映画が決まったらしい。
画面を見ると、去年話題になっていた恋愛もの。
そういうのに興味はないが茉緒が見たいのならそれでいい。

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