キス魔な御曹司は親友の妹が欲しくて必死です
「ところで、茉緒はどれくらいこっちにいるつもりなんだ?」
「あ~、うん」
私は一カ月ほど前に地元の運送会社の事務員を辞め、今は無職。
元々この機会にお兄ちゃんのところに遊びに行こうと思っていたのだが……。
「私、こっちで就職探そうかなと思って。でもその前に暫く遊びたいと思ってたんだけど」
「え? こっちに住むつもりなのか?」
「うん、だめ?」
「まあ、ダメじゃないけど。暫くっ遊ぶって、どのくらい?」
「二、三カ月くらい?」
「え?」
まさかそんなに長くいるつもりだったとは思わずお兄ちゃんはぽかんと口を開ける。
人間関係に疲れて仕事を辞めたから、少し、自分を癒そうと思って長い期間ゆっくりするつもりだった。
お兄ちゃんの住んでたマンションは2LDKで物置に使っていた部屋を使わせてもらえばいいかと思っていた。
当てにしていたお兄ちゃんのマンションは住める状態ではないのには困った。
「だからお兄ちゃん、早く新しいマンション見つけて! 私そんなに長くホテル暮らしする資金なんて持ってないよ?」
「いやいや、そこは諦めて実家に帰ろうよ」
「それは嫌!」
「茉緒~?」
何も知らないお兄ちゃんは困った顔で私を窘めようとする。
それにはツンとそっぽを向き抵抗した。
両親のことは心配だけど実家には帰りたくない。
仕事を辞めた後の一カ月もほとんど家を出ることなく閉じこもっていた。
もう、あの町に私の居場所はないのだ。
なにかを察してくれたのか、お兄ちゃんは理由を聞きだそうとはせず仕方ないやつだと俯く私の頭をぐりぐりと撫でた。
髪がぐちゃぐちゃになるからやめてほしいけど、察してくれたことは有難かった。

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