鬼麟
「俺たちね、狼嵐(ろうらん)っていう暴走族の幹部なんだけど、聞いたことない?」

 狼嵐、狼嵐……。
 ゆっくりと脳内で咀嚼しつつ、引っかかったその名前を引きずり出す。聞いたことはあった。
 されど、聞いたことあるのは名前だけで、幹部達まで詳しくは知らなかった。興味が無いと切り捨てた、過去の自分を盛大に罵りながら、「それで?」とだけ返す。
 あくまでも平静を装い、それがどうしたと促す。

「へぇ、棗ちゃんは驚かないんだね。それに、媚も売らない」

 私の返しが不満なのか、喜んでいるのか。
 心外だと目を細める様に、しまったと思わざるを得ない。媚を売れば、逆にあちらから嫌がられ、近寄られることもなかっただろうに、そのチャンスをみすみす逃してしまった。
 一か八か、既に間に合わないと知っていながらも私はできるだけ高い声を出す。

「え!? 狼嵐!? え、すごい! 幹部なの!?」

 精一杯ギャルのように振る舞う。
 だが、蒼は私の袖口を引くとにんまりと笑った。

「なっちゃん、目泳いでるよ?」

 あらぬ方向を見る私に、彼は容赦のない一言を浴びせる。そんなことはないと、精一杯見ようとするが、それでも目が泳いでしまう。
 こんなことで気付きたくはなかったが、私は演技の才能がないらしい。これではおそらく演劇部には入れないだろうと、あるのかもわからない入る気のない部活を断念した。

「なるほどね〜」

 何がなるほどなのか。
 玲苑は納得したように呟く。
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