鬼麟
「棗ちゃん、演技はいいからさ〜」

「いえ、心の底から凄いなと思ってます」

「うん、そうだね。で、棗ちゃん」

 思わず上げた心にもない言葉をサラリと受け流し、玲苑は微笑んだままだ。反論もまた聞き入れる気がないらしい。

「一緒に来てもらいたいところがあるんだ「いや!!」

 咄嗟に出たのは拒絶の言葉だ。
 ギャルであれば、こんな美形に誘われてしまえばほいほい行ってしまうはずなのに、またしても失態をおかす。私の中のギャル像がひび割れ、無残にも崩れ落ちていく。
 そんな私をまるで罠にかかったとでも言いたげに口角を上げる玲苑。

「あれ? 俺たちに興味があるんじゃないの?」

 嫌味ったらしくも、口角を上げたまま罠に落ちたウサギを嬲るのだ。
 蒼はと言えば、「んふふ〜、修くんたちにも見せなきゃ勿体ないよね」と獲物を見つけたとばかりに目を細めている。
 どうにかして口車に乗せられることを避けねばと、頭を巡らせるが特に何も思いつかない。
 ついて行った先に何があるかはわからない。けれどもし彼らの総長と会わせられでもしたら、そう考えただけでも嫌だと叫びたくなる。
 なんとか窮地を脱しようと、視線を投げた先に脱出口を見つける。

「あ、山本君!」

 右斜め前に座っていた彼の名前を呼ぶと、驚きと同時に変な声を出す彼。そのどこにでもある名前に最初は関心がなかったものの、ここに来て役に立ったと言える。
 彼も彼でここで名前を呼ばれるとは思ってもいなかっただろう。

「ねぇ、山本君。学校案内、してもらっていい?」
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