鬼麟
 その後気付けば真っ白な天井が視界に広がっており、その端に映った点滴の袋で病院にいるのだと理解した。死ぬこともままならないのかと、腹部が鈍痛を持って生を自覚させてくる。
 朧気な記憶は意識がはっきりしてくると同時に鮮明になり、虚しさが冷たさを増して零れた涙の熱にうなされた。

 施設へと引き取られ、冬にレオと出会って“狼嵐”に入った。仕方ないなと笑って俺の手を取ってくれたレオと本当の家族のように怒ってくれる倖、俺のことを許してくれる修人。
 みんなには感謝してもし切れないくらいなのに、俺はどうしても女が怖くて抱いて恐怖を隠す日々を変えられなかった。
 なっちゃんの目が俺の目を真っ直ぐに見てくるもので、大丈夫だと握った手に力を入れてやれば眉が下がる。
 黙って聞く彼女には恐怖を感じないのが不思議で、空いた手でその頬を抓ってみれば頭突きが飛んでくる。

「ごめんて〜、あっほら見て! これこれ刺された時の傷〜」

 怒るなっちゃんを宥めようと、何か面白いものはないかと考えて思いつく。シャツを捲って未だに残る傷痕を見せれば、俺を睨んでシャツを無理やり下ろさせる。

「馬鹿! そういうのは見せるもんじゃないんだよ!」

 痛々しさに同情の目を向けるでもなく、ただ見世物ではないと叱る彼女はどうにも他人事のように見えない。
 目を伏せて涙を零す彼女は、自虐的な微笑みを浮かべている。

「ちゃんと、痛かったから......」

 なっちゃんの目は俺を見ているでもなく、暗く沈むどこかを見ている。
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