鬼麟
 それが堪らなくもどかしくて、こっちを見て欲しいと手を伸ばそうとすれば、パッと顔を上げた彼女から暗さが消えていた。真剣なその表情に、気圧されたように言葉を紡げずにいれば彼女は口を開く。

「ところで、慰めたほうがいいのかな? こういう時って」

 何を言い出すかと思えばそんなことで、本人を前にして聞いてくるものだから思わず笑ってしまう。
 俺が笑い出したことに困惑するのもまた面白く、慰めは遠慮しておけばほっとした顔を見せる。

「良かった、そうしてくれとか言われたらどうしようかと思ってたから。私にはそういうの向いてないから」

 彼女は今まで出会って来た他の女とは違うのだと、今更ながらに痛感する。何が違うのかと言われれば、言葉に表すのは難しいのだが、それでも特別な子なのだと思ってしまう。
 なっちゃんはふと何かを思案するように目線を落とすと、ついでするりと手を離して背中を向ける。ジャケットを脱ぎ、シャツをも脱ごうとし始める彼女を慌てて止める。

「なっちゃん!? いきなりどうしたのさ」

 この光景を修人が見たらと、嫌な未来を想像しながらやめろと言えど、彼女はそのシャツを脱いだ。
 目の前には白くて綺麗な肌と、それに不釣り合いな無数の傷痕。そしてなによりも目を引くのは、左肩から舐める大きな傷痕だ。

「蒼だけってのは不公平でしょ? だからね、これでおあいこだね」

 背中を向けているからその表情をうかがうことは出来ないが、ことも無さげに言うその口振りが痛々しさを増幅させる。
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