鬼麟
 人のことをとやかく言えるのだから、さぞかし彼らは頭が良いのだろうと睨みつける。
 拗ねてる〜、と頬をつついてくる蒼にデコピンをして追い返す。

「蒼は自信あるの?」

「えー、あるんじゃない?」

 額を押さえる蒼は首を傾げながら言うもので、余裕そうな態度に驚きを隠せない。そんな蒼の肩に腕を置いて寄りかかるレオは、心底面白いとばかりに目を細める。

「棗ちゃんには俺らのこと馬鹿に見えてるってこと?」

「え、いや、ソンナコトナイヨ? レオが馬鹿だなんてオモッテナイヨ?」

「何その目! ていうかところどころ片言で嘘も下手だね!?」

 冷めた目で返してやれば心外だと抗議するレオは、その態度自体が胡散臭くて相手にするのも無駄だ。
 倖もため息をつくくらいなのだから相当なのだろう。

「棗ちゃん? やめて? その目はやめて? そんな憐れみの目で見ないで?」

 眩しいものでも見た時のように顔をしかめるレオの腕をどけ、蒼は重いと足を踏んづけている。痛さに呻き声を上げ、蒼に仕返しだとその頭を肘でぐりぐりと押し込んでいる。
 兄弟のようにじゃれつき始める2人に笑ってはいるものの、時間の流れが止まることはないのだと静かに諦める。
 そう、どんなに逃げたくともテストの返却からは逃れることは出来ないのだ。
 教室内はテストの返却に落ち着かない様子で、先生が1人ずつ名前を呼んでは取りに行く生徒たち。先生は誰に対してもにこやかにしているのだから、反対に返されたものを見て一喜一憂する生徒たちが対照的に映る。
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