鬼麟
「恐らくは。でなければ腑に落ちない点があったのでしょう?」

「少しだけね。仮にそうだとして、蒼は無関係だと思う。それこそ憶測でしかないけれど、玲苑が蒼をあんなやばいところと関わらせることはないはず」

 ここで修人と倖が除外されているのは、俺の存在があるからだろう。言外に含まれたそれに頷きつつ、彼女の眉間の皺が濃くなる度に濃密になる殺気に背中に冷たいものが伝う。
 生きた心地がしないとはまさにこのことで、肌が空気によって延々と摩擦されていくように嫌な痛みを錯覚させる。

「現状それほどまでに確実性がないのであれば、動くべきではないですね」

「情報なら欲しい。けれど使える手は使ったし、これ以上は」

 ここ最近のお嬢は修人らとつるむことなく、1人で何かをされていたようだが、情報収集は難航しているらしい。
 相手が相手なだけにまさしく手段を問わず、時には自身の身分を明かすこともあったのだろう。危険なことをしていると、止めに入ることが出来ない罪悪感に目を逸らす。
 光を求めているのに、どうしてもその先へといけない彼女の瞳は既に暗く、希望など見えていない。あるのは破滅への願望と、道連れにすべきモノへの執着。
 この人はどうしてこんなにも重いものを背負わなくてはならないのか。
 理不尽さに憤る権利を失った俺は、ただただ他人事のように願うだけだ。

「“雛菊”は、あなたのことを探しています」

 言うべきか迷ったそれ。
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