鬼麟
 既に知っていることであろうが、敢えてそれを言ったのは後ろめたさを少しでもなくすためだ。

「......諦めたと思ってたんだけどね。そう、やっぱりそうだったんだ」

 握り締めた拳を額にあて、今にも泣き出しそうな彼女の顔に後悔する。
 自身の罪悪感を軽くするためだけにお嬢に与えた絶望感は、その表情によって返される。
 今すぐにでも目を瞑り、耳を塞いでしまいたくなる衝動に駆られて拳を強く握った。
 彼女は悲しみと怒りの混じった瞳で俺を見て、それでと促した。

「1人、最近まで“雛菊”に干渉してた奴を知っています」

 彼女が部屋を出て行けば、ようやく肩の力が抜けて肺に溜まった空気を外へと放出する。
 ずるずるとだらしなくも背もたれへと体を預け、もう一度息を吐いて天井を見上げる。
 とても苦しいのだ。
 俺ではなく、彼女が。
 彼女の背負っているものを思えば、“大人”である俺でさえも逃げ出したくなる。けれどそれをまだ今よりも“子供”であった時から背負わされ、今でも囚われているのだからあまりにも惨いと思う。
 小さく華奢な体躯に見合わぬ強さを持つ彼女だが、それ故に酷く繊細で脆い一面はあまりにも危うかった。バランスを崩した瞬間、彼女はバラバラになってしまうのではないかと思わずにはいられない。
 約束などするものではなかったと、過去に後悔を募らせる。
 守るべき者に守られるのはあまりにも滑稽で、そしてあまりにも惨めな話であった。

「俺には荷が重いよ」

 そう、人が人を背負うのはあまりにも重すぎるのだと、どうして教えてあげられないのか。
 同罪であるのだろうと嘲笑するのもまた見苦しかった。
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