鬼麟
4.変化
「ねぇねぇ、なっちゃんてお姉ちゃんか妹ちゃんいたりするー?」
丸い瞳で上目遣いをしながら人差し指を顎にあて、可愛らしさとあざとさのバランスを保ったまま小首を傾げる蒼。これが偽物だとしても、キラキラとした目で見られては居心地の悪さを覚えてしまう。
休日の昼下がり、私は今狼嵐の廃工場に来ていた。昨日蒼にどうしても来て欲しいとせがまれ、彼に弱い私は流されるようなかたちでここにいるのだ。
可愛いは正義でありながら、時として毒でもあるのだ。
自身の意思に反して抗いがたいそれに為す術がないのは今に始まったことではなく、現に今もそれに苦しめられている。
廃工場に着いた途端に待ってましたとばかりに出迎えたのは蒼で、私の腕を掴むなりソファまで有無を言わさず連れて来られる。隣に座って近づく彼はじーっと目を細めたかと思えば、考え込むように俯いたのちに冒頭へと戻る。
あの夜から2週間経っていたというのに、今更ながらなその質問に驚いた。てっきり忘れられているか、あるいは些細なことであると判断されたのかと思っていたのだ。
「いないけどなに?」
女子よりも可愛いというのに若干の嫉妬を込め、蒼の頬を手で挟んでやればむずむずと動いて逃れようとする。
「なんかね、なっちゃんにすごーく似てる人がいたんだよ」
「ふぅん、どこに?」
「ん?」
「だから、どこにいたの? その“私に似てる人”」
私の手から逃れた彼は頬を膨らませたかと思うと、私の返しに目を逸らす。
丸い瞳で上目遣いをしながら人差し指を顎にあて、可愛らしさとあざとさのバランスを保ったまま小首を傾げる蒼。これが偽物だとしても、キラキラとした目で見られては居心地の悪さを覚えてしまう。
休日の昼下がり、私は今狼嵐の廃工場に来ていた。昨日蒼にどうしても来て欲しいとせがまれ、彼に弱い私は流されるようなかたちでここにいるのだ。
可愛いは正義でありながら、時として毒でもあるのだ。
自身の意思に反して抗いがたいそれに為す術がないのは今に始まったことではなく、現に今もそれに苦しめられている。
廃工場に着いた途端に待ってましたとばかりに出迎えたのは蒼で、私の腕を掴むなりソファまで有無を言わさず連れて来られる。隣に座って近づく彼はじーっと目を細めたかと思えば、考え込むように俯いたのちに冒頭へと戻る。
あの夜から2週間経っていたというのに、今更ながらなその質問に驚いた。てっきり忘れられているか、あるいは些細なことであると判断されたのかと思っていたのだ。
「いないけどなに?」
女子よりも可愛いというのに若干の嫉妬を込め、蒼の頬を手で挟んでやればむずむずと動いて逃れようとする。
「なんかね、なっちゃんにすごーく似てる人がいたんだよ」
「ふぅん、どこに?」
「ん?」
「だから、どこにいたの? その“私に似てる人”」
私の手から逃れた彼は頬を膨らませたかと思うと、私の返しに目を逸らす。